フラップゲート付防潮堤に津波救助装置を設置することにより新たな効果が得られます。
防潮堤や河川の堤防に、フラップゲートと津波救助装置を組み合わせて設置することで、安全性を維持しながら浸水した堤内の水位を即座に下げることが可能となります。 津波の場合、例えば、第一波が防潮堤を越流しても、堤体が決壊しておらず、第二波以降が防潮堤を越流しない高さであれば、堤内は基本的に第一波の引波により排水を終え、その後は安全な状態を維持できることとなります。
※通常のフラップゲートは、上部をヒンジとし、通常時に自重により閉鎖しているタイプが多いようです。
フラップゲート付防潮堤について
従来技術のフラップゲート付防潮堤について説明します。
フラップゲートとは、堤防に設置する、一方向にのみ開くことができる弁状の水門のことです。水害時に浸水した堤内(堤防の内側の地域)の水を排出したり、押し寄せる津波などの堤内への侵入を防止することができます。
※尚、ここでは防潮堤の高さをかさましするために防潮堤の頂部に設置するフラップゲートは除くものとします。
上のアニメーションは、津波が堤体を越流した場合の水位変化について、堤体がフラップゲートを具備する場合としない場合の違いを表しています。
左の画像は防潮堤を単独で設置した場合、右の画像は防潮堤にフラップゲートを具備させて設置した場合です。
波や水流が堤体を越流し、堤内の地域が浸水するまでは違いがありませんが、引波に切り替わるなどして堤外の水位が低下を始めると、フラップゲート付の堤防は、堤外・堤内の水圧差によりフラップゲートが開放され、堤内に浸入した水を排出することができます。
津波の場合、例えば、ある寄波の一波が防潮堤を越流したとしても、堤体が決壊しておらず、その後の寄波は防潮堤を越流しない高さであれば、堤内は引波により排水され、その後は寄波が繰り返し襲来しても堤内は大気中に露出した安全な状態を維持できることとなります。
しかしながら、フラップゲートは堤内からの排水時、水流に吞まれた遭難者も一緒に堤外に流してしまうことにもなります。
また、引波時や水位の低下時、フラップゲート付近は水流が集中するため、遭難者が強い水流に引き込まれ、フラップゲート周辺に引っ掛かった漂流物に移動を阻まれるなどして水中で窒息する危険性も考えられます。
津波救助装置との組み合わせ
フラップゲート付防潮堤に津波救助装置を併設すると、遭難者を救出しながら迅速に堤内の水位を低下させることができるようになります。
※別途漂流物フィルター等の併設が望まれます
以下に、津波救助装置を併設したフラップゲート付防潮堤について、津波の襲来時の機能について説明します。
1.通常時・1段階目の避難時
地震等により津波の襲来が予想された際、防潮堤より海側の地域では、当該防潮堤の上部へ、1段階目の避難をします。
※この施設構成により避難先や避難経路として指定された場合です。従来の防潮堤は越流すると防潮堤上部も危険です。
2.津波襲来時
防潮堤上部に避難した人は、当該防潮堤が接続する、より安全な避難先に、二段階目の避難をします。
逃げ遅れて寄波に吞まれた遭難者は、津波救助装置の、およそ最寄りの部分に漂着することとなります。
3.寄波越流時
津波が防潮堤部分を越流すると、防潮堤にせき止められ急上昇していた海側の水位の変動が小さくなるものと考えられ、上部の避難路が浸水するとしても、ある程度の時間稼ぎができ、避難者は、上部の避難路が接続する、より安全な避難場所へ避難します。
海側で津波に吞まれた遭難者は津波救助装置に沿って水面に押し上げられ、水面から避難路に上って二段階目の避難をします。
※津波救助装置は、予想される浸水高さによる防潮堤の越流深以上のクリアランスを確保した設計とし、基本的には上部通路が浸水しないように計画します。
尚、東日本大震災では、津波が防潮堤を越流した際、堤体の内陸側の法面や脚部が洗堀により破壊され、それによる堤体全体の崩壊が指摘されていましたが、津波救助装置に被覆されると一定の透過抵抗により流速が平準化されるため、洗堀を低減する効果が得られるものと思われます。
4.引波への切替り時
寄波が止まり引波に切り替わると、寄波の水流の圧力により閉じていたフラップゲートが開き始めます。
5.引波による排水開始時
引波により海側の水位が堤内の水位より下がると、圧力差によりフラップゲートが開き、堤内からの排水が始まります。堤内で水に吞まれた遭難者は、排水するフラップゲートに引き寄せられます。
6.引波による排水時
フラップゲートを通過する引波の水流によりフラップゲートに引き寄せられた遭難者は津波救助装置に漂着し、当該水流により津波救助装置に沿って水面に押し上げられます。
7.救助活動時
津波救助装置に沿って水面に押し上げられた遭難者は、そのまま自力で避難できる場合、上部の避難路に上がり二段階目の避難をしますが、気を失っているなど自力で避難できない場合、転落防止装置に保護された状態で救助を待つことになります。
救助活動は、基本的に、上部の避難路を伝って行います。上部の避難路は、車両が通行できるものとすると、人員・救助のための物品や物資の搬送、救急車による負傷者の搬送などが容易になるため、救助活動が非常に効果的に行えます。
※尚、フラップゲートを設置せず堤内の水が即座に排出されない防潮堤であっても、津波救助装置で堤体を被覆していることにより、津波救助施設としての機能のみならず、様々な相乗効果が得られます。津波救助装置の部分が、場所や水位を選ばずボートなどが離着岸可能な岸壁として機能できるため、線状に展開する、自在な救助活動の拠点として活用することができます(「防災拠点」のページも参照下さい)。
また、壁状の防潮堤の場合、ゲート部分や局所的に設けられた小階段等でしかアクセスや反対側への通り抜けができず、日常の動線も避難時の動線も大きく制限されてしまいますが、津波救助装置を被せることにより、自在にアクセスできるものとなり、上部空間についても、非常時の避難経路としてのみならず、眺望の良い散歩道やレクリエーションの空間として日常生活に取り込むことができます。
その他の構成
津波救助装置はフラップゲートまわりのみの設置とすることもできます。
引波時、フラップゲート付近は流速が大きくなっていると考えられるため、津波救助装置は極力広くフラップゲートを覆う構成とすることが望ましいですが、フラップゲート付近のみ覆う経済設計とすることもできます。
また、防潮堤上部を大きく越流する可能性がある場合、防潮堤の上部に、浸水時に自動的に回転して津波救助装置を形成するフェンス(津波救助装置のページを参照下さい)を設置すると、大きな越流深にも対応できる津波救助施設を容易に構成できます。
壁状の堤防への設置例
平野部の少ない三陸の被災地などでは、壁状の防潮堤の建設が進められておりますが、このタイプの防潮堤は、通常時開放している水門部以外では港湾部と内陸側の移動を遮断してしまいます。
このため、通常時開放しない水門をフラップゲート式とし、階段状の津波救助装置で覆うことにより、防潮堤で分断されたエリア間の移動を容易にし、津波襲来の際は、万一越流して内陸側が浸水した場合にも迅速かつ安全に排水し、同時に水に吞まれた遭難者を漂着させて救出することができるようになります。
また、防潮堤上部に手摺を設置することにより、津波救助装置により救出された遭難者のさらなる避難や救助活動を容易かつ安全に行える通路を確保することができます。
壁状の防潮堤のフラップゲート部分に漂流物ガード付き津波救助装置を設置した例(アニメーション)
最小限の構成としながらも、高い寄波により浸入した海水を引波時に排出し、堤内での救助活動をいち早く開始できるようになることが伝わるでしょうか。
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