一方向流による感染防止
一方向流を発生させ、在席者同士が互いの風下に位置しないように座席を配置することにより、感染防止を図ります。
上述のように、これまでの一般的な換気設備は、換気回数や換気量を基準に計画されていました。しかしながら、感染防止という条件を付加した場合、換気設備の換気量による対策だけでは、感染防止効果は不十分と思われます。
そこで、一方向流を発生させて感染防止を図る気流アレンジメントの視点により、空調換気設備やパーティション等を計画し、空気感染を防止する方法を提案・提起します。これらは基本的に、以下に説明する、置換空調や局所排気の原理を利用します。
置換空調
通常、クリーンルームなどに適用する空調方法です。平行な鉛直方向の一方向流を発生させます。
サーバールームなどの場合、床下から給気(SA)を供給し、天井から排気(EA)します。在室者の体温やPC等機器類からの排熱により温まった空気は自然に上昇するため、このような空調換気方式とすることにより、汚染空気や排熱を、効率よくごっそりと新鮮な空気と置き換えることができます。
このような置換空調を、より汎用的に適用する構成例を以下に示します。
省エネルギー上効果的な置換空調の構成例
局所排気
熱や汚染の発生源により加熱・汚染された空気を室内に拡散させず、当該発生源周囲から直接吸い取り排出することにより、室内の空気環境を効率的かつ安全に維持することができます。
危険な細菌の操作ブースなどに用いられるドラフトチャンバーは、局所排気を行います。
キッチンのレンジフードもドラフトチャンバー同様、局所排気を行います。
キッチンの換気は、熱や二酸化炭素、水蒸気等を排出するだけではなく、同時に新鮮な酸素を豊富に取り入れることとなり、火気使用時の一酸化炭素の発生を抑制します。
局所排気による換気システム
有害物質を扱う作業などに用いるドラフトチャンバーのように、簡易な仕切と組合せ、在室者の周囲をスポット的に排気することにより、感染拡大を防止する空調換気システムを構成することができます。既設の空調システムを活用しながら、追加導入することを想定しています。
開放的な天井面での局所排気について
上述のように、吸込の気流は直進性がなく、吹出空気と比較して、影響のある範囲(距離)が大変小さくなります。
このため、開放的な天井面に排気口を設けて局所排気を行う場合、室内全体を流れる気流の流速に対し当該排気風量が小さいと、下方の感染者の呼気を排気できません。(上図左)
これに対し、一定程度以上の高さのパーティション等を設置し、室内全体の気流を抑えると、下方の感染者の呼気を排気しやすくなります。しかしながら、これでもやはり室内全体の気流に対し、排気風量が十分大きくないと、局所排気として機能しません。また、排気の気流より室内の気流が優勢となり、これがパーティションを越流すると、感染者の呼気もパーティションを越流し、巻き返した渦に引き込まれ、反対側の下方にも拡散するものと考えられます。(上図中央)
さらに、パーティションを高くすると、室内の気流はおよそ遮られますが、下方に位置する人の体温により発生する僅かな上昇気流と、当該排気口の吸込気流の相乗効果により、当該パーティションで隔てられたそれぞれの空間内で対流が発生しやすくなり、空気はパーティションを越流せずに、排気口に吸い込まれるか、当該範囲内でゆるやかに対流を続けるようになります。このような状態になると、感染者の呼気も同様に、パーティションを越流しなくなり、当該範囲内に閉じ込めることができ、空気感染防止を図ることができます。
このような気流の状態を作り出すには、高いパーティション、大きな排気風量と、ライン状の排気口の設置が効果的と考えられます。また、当該パーティションをまたぐ給排気ルートが存在しないことが条件となります。
ブースの閉鎖性と空気感染の防止
パーティションを天井まで突き付け間仕切りとし、当該間仕切りに沿って席を設け、ブースを形成する場合の気流の振る舞いについて解説します。
壁に向かって席を配置し、上方に排気口を設けると、在席者の呼気を排出しやすくなりますが、対流等、室内に存在する気流に対し、当該排気口による吸込気流が優勢である範囲は非常に小さいため、当該在席者の呼気の多くは、室内の空気の対流する気流に乗って拡散します。(上図左)
これに対し、排気口を囲うように垂壁を設置すると、天井面の気流が遮断されるため、排気口周囲が室内全体の空気の対流の影響を受けにくくなります。(上図中)
これにより、ブース状の空間が形成され、閉鎖性が高くなるため、席の上部の空気は滞留しやすくなり、在席者の呼気は蓄えられ、ゆっくりと排気されます。
しかし、この場合でも、排気口からの排気速度に対して垂壁下方の開放部分が大きく、ブース内の空気の対流や拡散により、一定量の呼気が、ブース背後に流出していきます。
この構成は、室内全体の換気と組合せることにより、室内全体の呼気の濃度を抑制し、タスクアンビエント的な換気を可能とします。
さらに、垂壁に代えてカーテンを設置すると、机や在席者の身体とカーテンの間隙による、細いボトルネック状の部分が形成されます。(上図右)
このボトルネック状の部分はブースの開口部となり、開口面積が小さいため、排気口の排気風量が十分であれば、この開口部では全域に渡り、通過する気流が、ブース内部への吸込方向となります。
これにより、当該ブース内の空気はブース外部に漏出せず、全て排気口から排出されることになり、基本的に、完全な空気感染の防止が可能となります。
居酒屋等、呼気による感染力が強くなると考えられる使用でも、空気感染を防止することができます。(空調換気による感染防止技術のページ内「施設や用途ごとの適用例」/「飲食店」にて解説します)
局所排気システムの導入例
オフィスの空調換気システムの例です。各席からの排気により、在席者相互の空気感染を防止します。
飲食店のブースの構成例です。ブース内部ではスクリーンにより互いの飛沫感染を防止しつつ、テーブルごと局所排気することにより、室内(ブース外)に呼気を漏らさず、ブース内部では気流を整流させて互いのエアロゾル感染を抑制しています。
水平方向の一方向流の形成
完全な鉛直方向の置換空調とするためには、揚げ床(床のかさ上げ)とし、床下にダクトやチャンバーを、床面に吹出/給気口(または吸込/排気口)を設ける必要があります。これには費用がかかり、天井高も圧迫されます。
これに対し、気流が水平方向に流れるよう給気口や排気口を計画し、在室者が互いに気流の上流側・下流側に重なって位置しないように座席等をレイアウトすることにより、空気感染を防止することができます。
尚、室内の空気の対流や拡散といった作用に対し、換気による一方向流の速度を十分大きくすることが肝要となりますが、図のように、線形の給気口や排気口を用いることにより、乱流の発生を低減し、滑らかな層流の形成を誘導することができます。
給気口、排気口共に天井面に設置する場合、給気を室内下方まで到達させるべく風速を大きく計画することとなりますが、これにより感染者からの汚染空気を拡散させる可能性も大きくなってしまうため、給気口直下に座席をレイアウトしないようにする等の配慮が望まれます。
通常、給気口は一定以内の間隔ごとに配置し、冷暖房効果等にムラが生じないように計画しますが、給気口と排気口を交互に配置することにより、複数列の一方向流を形成することができます。
※天井面に吹出口と排気口を配置する場合、ムラの無い空調環境を作り出すため、給気の吹出風速を大きくする必要がありますが、感染者に直射されるとコロナウィルスを含む呼気が拡散されやすくなります。このため、吹出口と排気口の間隔を大きくし、極力吹出空気が直接在席者に当たらないように配置することが望ましいと考えられます。
客席間にスクリーンを設置することにより、より確実に飛沫感染および高濃度エアロゾルによる感染を防止することができます。
従来、冷房は、背中側から当てるのではなく、前面から当てた方が快適と言われますが、咳やくしゃみをした際の飛沫や高濃度エアロゾルが逆流することとなり、隣接する座席に対し感染のリスクを高めることとなります。
このため、吹き出し空気は、背後から当てる向きとし、流速を抑え極力アンビエント化するか、または、前面から当てる向きとし、スクリーンを座席前方まで十分に延伸する、といった構成を提案します。
上図のように、客席相互の間に床面から天井面まで達するスクリーンを配置すると、客席相互の飛沫感染を防止することのみならず、気流の対流等の運動を制限し、給気口側から排気口側への一方向の流れに整流する効果を期待することができます。
上記のように、制気口(給気口・排気口)を単純に平行に配置した場合と比較して、滑らかで均質な気流は期待できませんが、放射状に一方向流を発生させることもできます。
左図では互いに向かい合っていますが、この場合、互いの距離を十分に取り、マスクを着用して飛沫感染を防止する等の感染防止対策を併用する必要があります。
互いに向かい合う座席間には、パーティションを設置し、互いの飛沫や高濃度エアロゾルによる感染を防止します。
また、当該パーティションは一定以上の高さとし、上部に排気口を設けることにより、当該パーティションが排気の上昇気流を生む誘導板となり、相乗効果を期待できます。
一般的なオフィスレイアウトに落とし込んだ例です。
詳細は、事務所への適用例として説明しています。
気流の性質や一方向流の形成についての詳細は、「気流の性質と一方向流の形成」のページを参照下さい。
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