ウィルス放出メカニズムと感染防止条件の設定

 感染者によるウィルス放出・拡散のメカニズムを考察し、空気感染防止に必要な条件を検討してみます。

ウィルス放出・拡散のメカニズム

 ウィルスを含む飛沫やエアロゾルが放出・拡散されるメカニズムを、勝手に考えてみました。

 感染者がくしゃみや咳をした際、唾液の飛沫が放出されるのと同時に、噴流(ジェット)が発生します。
飛沫は放物線を描き落下しますが、噴流は恐らく2m程度の距離まで到達し、当該噴流や、噴流が引き起こす周囲への拡散した気流に乗って、濃厚なエアロゾル(水蒸気その他浮遊する粒子)が放出されるのではないかと思われます。

飛沫とエアロゾルによる感染防止範囲の設定

 直射日光が入る浴室で温水のシャワーを使用すると、肉眼でも観察することができる大きな粒子を含んだ水蒸気が立ち上るのが確認できます。シャワーで温められた空気が水蒸気と混じり合って上昇気流を生んでいる為、落下せずに上昇しているのでしょうけど、けっこう大きな粒子でも気流に乗って浮遊できる、ということが言えると思います。シャワーの使用中、換気しなければ、浴室内の相対湿度は100%を維持しますが、通常の環境であれば、このような粒子は短時間で乾燥して消滅してしまいます。
 感染者の咳やくしゃみで考えると、一定の範囲内は、飛沫と同程度の密度でウィルスを含む水蒸気のエアロゾルが浮遊し、大気中で乾燥することにより、内部の塵や菌、ウィルス等が放出され、落下せずに大気中に拡散されるのかも知れません。

感染防止条件の設定

 放物線を描いて落下する飛沫だけに注意し、はっきりとした感染は確認されていないとはいえ、エアロゾルをノーマークではいることは、大変危険かと思います。そこで、上図のような「高濃度エアロゾル範囲」を設定し、これを遮断したり、ソーシャルディスタンスの根拠とすると合理的ではないかと考えます。
 高濃度エアロゾル範囲は、換気量が小さい場合や気流が滞留する場合は適宜大きく見込み、呼気が届く前方は大きく(例えば2m程度)設定し、その他の方向や、マスクやフェイスシールドを着用した条件であれば、範囲を縮小して設定(換気が十分された室内条件なら、例えば1m程度)します。
 ※尚、換気量が小さい場合や気流が滞留する箇所では、開放的なスクリーン設置により高濃度エアロゾルを遮断することは困難となります。


空気感染しやすい条件について

集団感染が多いケースについて、考察してみました。


空気感染の防止方法

 飛沫や高濃度エアロゾルを遮断し(または離隔により相互に高濃度エアロゾル範囲に入らない)、換気や後述の気流アレンジメントにより、エアロゾルを希釈・排出するよう計画します。

飛沫および高濃度エアロゾルの遮断

 少なくとも、直接の飛沫には感染力があることが分かっているため、互いにスクリーンにより遮断したり、一定以上離れておくことが重要です。

換気量による感染防止(飲食店の例)

 上図の例では、一般的なマスクやフェイスシールドを着用するのと同様、咳やくしゃみ、呼気に含まれる飛沫による感染を防止するために、ビニルによる仕切を設置しています。

 エアロゾルについては、感染力は不明ですが、一定以上の高濃度のエアロゾルに感染力があるものと想定した場合、上述の「高濃度エアロゾル範囲」を検討・設定し、これをスクリーン等により遮断し、または、互いに当該範囲に入らないように座席等を計画することが有効であると考えます。

エアロゾル(全般)による空気感染の防止

 コロナウィルスの感染の原因が、ほとんど飛沫や接触のみであれば、空調・換気システムによる影響はそれほど大きくありませんが、エアロゾル感染の可能性が一定以上存在する場合、空調換気設備や建築的な対策方法を検討し構築することが重要であると考えます。

 具体的にどの程度の濃度のエアロゾルが感染を引き起こすかはわかりませんが、基本的に、極力還気(室内空気を回収し再熱するなどして再供給する方式)を控え、新鮮な外気を取入れることにより、エアロゾルの濃度は抑えられることになります。

 現時点では、エアロゾルによる空気感染の影響の大きさはまだ検証されていないと思いますが、これまでの社会的な対策や感染者数の推移といった経緯を考えると、完全に空気を遮断する必要があるほどの感染力ではないかと思われます。このため、微小な程度は、互いの吐いた息を吸い込む可能性を許容し、空調・換気計画をしても差し支えないのではないか、と思います。

 とはいえ、上述のように、感染防止に有効となる換気量は不明であり、気流が滞留する箇所では、呼気が滞留して高濃度エアロゾルとなりやすいので、遮断と換気量にのみ頼らず、適切に気流を形成し、感染防止を図る方法(「気流アレンジメント」と呼んでいます)を推奨しています。

従来の換気設備の問題点

 通常の換気設備は、一定以上の酸素濃度の維持や、二酸化炭素・一酸化炭素の濃度の抑制、シックハウスの防止といった目的のために要件が設定され、必要な換気量を確保するように計画・設計されるものでした。
これに対し、感染防止の視点により換気設備が計画されるのは、特に必要性の高い病院や手術室等、特殊なケースに限られていました。
通常、前者は瞬時拡散の条件により、後者は置換空調等により計画されます。
 前者について、実際は排出された呼気は瞬時に拡散するわけではなく、室内の気流に乗ってゆっくり拡散します。このため、即座にエアロゾルの濃度を下げるには、大風量による換気が必要となりますが、これまでの設計よりも必要な換気量が大きくなるということは、より大きなダクトやダクトスペース、貫通孔、大容量の送風機などが必要となり、同時に、夏や冬は冷暖房の容量や消費エネルギーが大幅に増加することとなり、望ましくありません。

気流アレンジメント ~ 一方向流による汚染空気の排出と交差感染の防止

 そこで、室内全体の既設の空調換気システムに加え、汚染源(つまり在室・在席者)付近の空気を、負圧により、ドラフトチャンバーのように排出する、タスクアンビエント方式の空調換気システムを構成することを提案します。これにより、既設の空調換気システムを活用しながら、大きな無理をせずに感染防止を図ることができます。
 また、置換空調のように、空調換気による気流を一方向に整流し、気流の上流・下流に座席が重ならない配置とすることにより、交差感染防止を期待できます。

 みじんこ総研では、飛沫や高濃度エアロゾルを遮断するスクリーン・パーティションの設置と併せ、換気量を大きく確保する方法、一方向流を発生させて感染防止を図る方法(「気流アレンジメント」と呼びます)を適宜組合せることにより、空気感染の防止を図ることを提案しています。


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