津波や洪水の浸水時に回転または開放させて水流を受け流させる構造物の支持構造です。
建築物その他構造物は、津波等の水害による浸水時、水流を受けて倒壊するおそれがあります。とりわけ津波の場合、避難所の倒壊は大きな人的被害に繋がるため、容易に倒壊しない構造とすることが強く望まれます。
みじんこ総研が提案する受け流し構造/壁開放機構は、構造物やその部分を、通常時には安定して支持し、浸水時には水流と浮力を利用して回転し開放または流出させ、当該構造物の倒壊を防止するものです。
基礎構造や躯体と、支持対象部分を、互いに分離や変形が可能な、特殊なファスナーで接続し、さらに、浸水により解除されるロックシステム(詳細は「変形ロック機構」のページを参照下さい。※ページ作成中)を併設するなどにより、通常時に支持対象部分を安全に支持し、浸水時に回転し開放または流出させることができます。
また、この機構を用いることにより、通常時には直立してフェンスや手摺として、浸水時には回転して津波救助装置として機能する装置を形成することもできます。
開放式壁体支持機構
壁体流出型
建築物の外壁を帳壁とし、浸水時に開放して流出させる構造とした例です。
以下の図は、通常時の壁体の支持状態を示しています。
通常時の壁体の支持状態について
通常時、支持対象となる壁体は、自重により、上部壁体側ファスナー先端の上部ファスナーボルトを、上階のスラブや梁下端に設置された上部躯体側ファスナーの上部ガイドに沿わせ、下部壁体側ファスナー先端の下部ファスナーボルトを、下部躯体側ファスナーの下部ガイドに沿わせ、下方に移動しようとするため、上下のファスナーボルトは、それぞれ、上部ガイドと下部ガイドの底部に位置しようとし、これにより、当該壁体は安定して支持されます。
※下部ガイドは、底部を、下部ファスナーボルトに対し、多少のクリアランスを持った深さとし、支持対象の壁体の面外方向の移動のみを拘束させるものとすることで、支持対象の壁体の重量は、上部ガイドのみが受け持つこととなりますが、地震時や強風時、振動時に、躯体の変形による上部ガイドと下部ガイドの間隔の変化を吸収することができますようになり、また、当該躯体の変形時や振動時に、上下のファスナーボルトと、各々が接続するガイドの底部との接触により発生する衝突音を防止することができます。
水流取込チャンバーとフロートフィンロックについて
フロートフィンロック(詳細は「変形ロック機構」のページ参照下さい ※ページ作成中)によるロック機構を格納する水流取込チャンバーは、ロックウールとその表面の機密層により室内側と区画され気密状態を維持しており、外壁廻りの防火区画、断熱、音の遮断、気流の遮断を行い、チャンバー内は、屋外側に水流取込ガラリを介して開放されています。
強風時、水流取込チャンバー内の気圧は、風圧の動圧により変化しますが、気密層により屋内側と遮断されており、水流取込チャンバーは入り口が小さな袋小路となる断面形状であるため、内部の空気は大きく流動せず、また、フロートフィンロックは押さえウェイトにより回転を抑制されているため、フロートフィンロックは回転せず、誤ってロックが解除されません。
水流取込チャンバーは、ダクトを接続するなどして、屋外からの給排気のための空調換気用チャンバーを兼用することができます。水流取込ガラリをスリット状に水平方向に通すと、ファサードデザインをまとめやすく、カーテンウォールにもなじみやすいものとなります。
※尚、この場合、当該ダクトの接続位置は、強風時や空調設備の運転時に、フロートフィンロックを回転させる空気の流れが発生しないよう、配慮して計画することが必要となります。
水流取込ガラリとチャンバーボックスは、空調設備用(外気取込・排気)を兼用することができ、外観デザイン上のポイントすることもできます。
浸水時の挙動
浸水時には、水流取込ガラリを通過して水流取込チャンバーに浸入した水がフロートフィンロックを、浮力及び水流の動圧による荷重によって回転させます。このとき、フロートフィンロックを抑えていた押さえウェイトは、当該回転力により持ち上げられます。 壁体下部の浸水直後に壁体が上昇を開始した場合、下部ガイドに接続するファスナーボルトがフロートフィンロックのフック部分に接触し荷重を加えてしまい、当該フロートフィンロックの回転を阻害してしまうおそれがありますが、下部ガイドは、ファスナーボルトの移動方向を鉛直方向に限定する形状であるため、壁体の下部が浸水し、当該下部が水流の動圧による水平方向の荷重を受けても、当該壁体や当該ファスナーボルトはすぐには上昇せず、フロートフィンロックは上記のように阻害されず回転することができますため、浸水時に確実にロックを解除することができますものとなります。
以下のアニメーションは、浸水してロックシステムが解除され、支持対象の壁体が開放され流出するまでの流れを表しています。
浸水し、フロートフィンロックが回転してロックが解除され、壁体の浸水深が大きくなると、壁体が水流から受ける水平方向の荷重が大きくなり、また、当該荷重の中心が壁体上方に移動するため、壁体上部のファスナーボルトから上部ガイドに作用する水平方向の荷重が増大し、壁体は当該ファスナーボルトを上部ガイドに沿わせながら上昇し、下部のファスナーボルトが下部ガイドの開放された端部に到達し、また、上部のファスナーボルトが上部ガイドの開放された端部に到達し、当該壁体はこれらのガイドの拘束を解かれ、水流に流されます。
尚、上部ガイドまたは下部ガイドのいずれか一方の上端部を開放せず、残る一方のみ開放する形状とすることで、当該壁体は、開放する形状としたガイドに接続しいたファスナーボルトの側を回転させて開放し、当該壁体を流出させずに水流から受ける動圧による荷重を受け流すものとすることができます。
また、当該壁体と躯体を接続する、シーリングやロックウール、内装材料等は、強固なものとせず、壁体は浸水時にこれらを変形させまたは破壊しながら、変形や移動ができますものとします。
下流側の壁の支持機構は、基本的には上流側と同様ですが、上流側から屋内を経由した浸水に対してフロートフィンロックによるロックを解除させる構造とします。また、上流側同様、屋外側から水流取込チャンバー内に水が浸入する場合には、フロートフィンロックに浮力が作用することによってロックを解除しますが、先に上流側外壁部分などから屋内が浸水し、当該下流側外壁部分に水流が到達し浸水する場合は、当該水流の動圧による荷重や浮力を受け、フロートフィンロックを回転させ、ロックを解除します。このため、下流側の当該機構のフロートフィンロックも、上流側と同様、予想される水流の方向に対して当該水流の動圧による荷重を受けてロックを解除できます向きに回転可能な構造とします。また、上流側の外壁などから屋内が浸水した場合に、容易に当該下流側外壁のフロートフィンロックによるロックが解除されるよう、床下に水流を透過できます空間を持たせることが好ましいです。
壁体の安全な支持について
地震時の壁体の脱落防止について、ガイドやスライダーの勾配を大きくすることで、当該地震による一定以内の加速度に対し、当該壁体の開放や脱落を防止できますが、フロートフィンロックによるロック機構を具備させた場合、当該ロック機構により地震時の壁体の開放や脱落を防止することができます。
通常時のフロートフィンロックの状態維持について
フロートフィンロックは、重心と回転軸の位置を一致させることで、地震時に揺れの(加速度の)方向によらず、回転してロックを解除しないようにできます。ただし、フロートフィンロックは、浸水時以外はロック状態を維持する必要があるため、常にファスナーボルトを拘束できる角度となる復元力を与えるよう、ねじりばねやウェイトによる押さえを設置します(フロートフィンロックの重心と回転軸を地震の揺れの影響を受けない程度にずらす方法もあります)。
図のように押さえウェイトを設置した場合、地震時に重力加速度を超える鉛直方向の振動があったとしても、フロートフィンロック自体は重心と回転軸が一致するため回転せず、押さえウェイトは単独で上方に跳ね上げられるだけなので、ロック状態は解除されず、当該壁体は安全に支持された状態を維持することができます。
ねじりばねを用いた場合は部材の劣化による動作不良の怖れがありますが、ウェイトによる押さえとした場合は、重力により復元力を作用させるため、可動部の膠着のおそれがない場合、耐久性や信頼性が高いと言えます。
上吊式引波対応型壁体支持機構
上吊りで引き波にも対応できる、壁体を回転し開放させる支持構造です。
下図は、浸水直後の壁体の支持状態を示しています。
上述の壁体流出型では、津波や洪水による浸水時、水流の動圧による荷重を受けた際に、壁体を流出させる構造の例を示していますが、これに対し、壁体を流出させず、回転させて浸水時の荷重を受け流す構造とすることもできます。ここでは、壁体の上部を吊った状態で下部側を回転させ開放させる構造の例を示しています。
壁体流出型同様、下部ガイドは、下部ファスナーボルトの移動可能な方向を鉛直方向に限定していますが、上部ガイドは、寄せ波、引き波の両方の向きの水流の方向に向かって上がっていく傾斜部分を持ち、なおかつ、閉じた形状をしているため、当該壁体の下部が下部ガイドから外れて当該壁体が回転しても、当該壁体上部の上部ファスナーボルトは、接続する上部ガイドから外れず、当該壁体を流出させません。
下部ガイドは、上述のように、下部ファスナーボルトの移動方向を鉛直方向に限定する鉛直部分を持ちますが、その上部は、寄せ波、引き波の両方向に向かって上がっていくわずかな傾斜案内部分を持ち、さらにその上端からは、寄せ波、引き波に対し、それぞれの方向に下がっていく傾斜面に切り替わる形状としているため、寄せ波と引き波が切り替わった際に、当該壁体の、水流に押されて持ち上げられ水流の方向に開放されていた、下部側が下降し、当該壁体下部に取り付けられた下部ファスナーボルトが下部ガイドに接触しても、これらの傾斜面に誘導され、下部ガイドを乗り越え、当該壁体は、切り替わった後の水流の下流側となる方向に開放され、水流を受け流すことができます。
下図は、浸水後、壁体が開放され、引波に切り替わった際の挙動を示しています。
下辺拘束式引波対応型壁体支持機構
下辺を支点に回転して上部を開放させる壁体の支持構造です。
上述の上吊式引波対応型壁体支持機構では、上部を吊って下部を開放する構造の例を示しましたが、下部を支点として回転させ、上部を開放させる構造とすることもできます。
この方式とすると、水流に吞まれた遭難者が漂着した際、回転した状態の壁体の下部に潜り込み、浮上できずに窒息することを防止することができます。
また、この支持構造を用いて、通常時は直立していて、浸水時には回転して津波救助装置として機能する、フェンス状の津波救助装置を構成することができます。
さらに、この支持構造によるフェンス状の津波救助装置と、浸水時に下端を中心に回転または流出させることで開放する壁を、併せて(重ねて)設置することにより、通常時は壁体として機能し、浸水時は津波救助装置として機能可能な壁面を構成することができます。(詳細や具体例は「津波に強い建築物」(ページ作成中)、「津波避難マンション」等のページを参照下さい。)
尚、ガイドとファスナーボルトの取付は、製作や施工、納まり等の都合により、躯体側・壁体側を逆にすることもできます。
※この場合、ガイドの向きは上下逆となります。図の例では、ガイドを壁体側に取り付けています。
下図は、浸水後、壁体が開放され、引波に切り替わった際の挙動を示しています。
パッキンによる緩衝機構・拘束機構
受け流し構造/壁開放機構や開放式壁体支持機構は、製作や施工の精度による誤差を吸収したり、動作を確実にするため、ボルトとガイドの間に多少のクリアランスが必要となります。しかしながら、このクリアランスにより、台風や地震、その他振動などにより、当該壁体に荷重が作用した際、騒音や振動の原因となるがたつきが発生する可能性があります。 このため、ガイドの、通常時にファスナーボルトと接触する部分にパッキンや緩衝材を設置し、がたつきや騒音を抑制することが望まれます。
また、上述のフロートフィンロック等のロック機構を具備させない場合、ガイドに硬質なパッキンを取り付けファスナーボルトを拘束させることにより、通常時の壁体の脱落等を防止し、安全性の向上を図ることもできます。
通常時、壁体に作用する重力により、V字型やW字型のガイドの谷部に荷重伝達ボルトを位置させて壁体を保持しておく場合、設定された上述のクリアランスに係らず谷部の最奥に当該荷重伝達ボルトが位置することになりますが、壁体が水平方向の荷重を受けると、当該荷重伝達ボルトが谷部から外れてしまい、当該壁体が脱落する可能性があります。硬質ゴムなどによるパッキンを当該ガイドの谷部に固定し、当該荷重伝達ボルトを保持する構造とすることで、このような脱落を防止することができます。通常時、当該壁体にかかる風圧や衝撃等の荷重に対しては、当該パッキンが当該ボルトを拘束し、浸水時、水圧や水流による大きな荷重を受けた場合にのみ当該パッキンが変形し、当該ボルトが当該ガイドの谷部から外れるようにします。
このように、パッキンにより、通常時の安全性の確保と、使用に差し支えのある有害な変形や騒音、振動の原因となるがたつきの防止が可能となります。
上図の例では、鉛直ガイド用緩衝パッキンは、通常時のがたつき防止のため、傾斜ガイド用拘束パッキンは、通常時の、風圧力や、人や物品の衝突等による荷重に対する脱落防止のために取り付けられています。
尚、この図の例は、上述の下辺拘束式引波対応型壁体支持機構への適用例を示しています。
縦軸回転式引波対応型壁体支持機構
ドアのように、縦軸を支点に回転して開放させる壁体の支持構造です。
支持対象となる壁体には、回転軸となる、ヒンジボルトと、開放させる側の先端付近の上下にファスナーボルトを備えさせます。
通常時、当該壁体は、回転軸側については、下部ヒンジボルトの先端が、下部ヒンジ受けの孔の底部に突き当たっており、開放される側については、上下のファスナーボルトが、躯体に取り付けられた上下のベースプレートのガイド部分に接触し、自重により、この谷部に保持されているため、当該壁体は安定して保持されています。
上部ヒンジボルトの先端と、上部ヒンジ受けの孔の底部にはクリアランスを設け、また、当該壁体の上下と構造躯体との間にもクリアランスを設け、壁体が鉛直上方に一定量、自由に移動できるようにします。
浸水時、壁体に作用する水流による荷重が、ベースプレートのガイドの谷部が壁体のファスナーボルトを保持する応力を上回ると、壁体は上昇しながらヒンジボルトを回転軸として回転し、ファスナーボルトがガイドの山部を乗り越えると、壁体は開放され、水流を受け流すことができるようになります。
尚、ベースプレートのガイド部分には、壁体流出型の例で示したようなロック機構を備えると、地震や強風、振動、衝突などにより、当該壁体が誤って開放されることがないため、より安全なものとなります。
サッシ・カーテンウォール・フェンス対応型壁体支持機構
方立にガイドを設置し、剛性の小さな壁体等を合理的に支持できる支持構造の例です。
上述の構造例では、床スラブなど躯体に設置したベースプレートにガイドを設けた例を示してきましたが、方立てなどにガイドを設置する構造とすることにより、開放させる壁状体や支持構造等の構成を合理的にできる場合があります。
剛性が小さい壁体、方立を二次部材として小さく分割する壁体、サッシ、カーテンウォール等の、セットでのプレハブ化が適切な壁体、その他施工精度が要求される壁体などにはとりわけ最適な構成と考えます。
また、この支持方法は、フェンス型などの津波救助装置に適用すると、大きな浸水深に対応できる大型の津波救助施設を構成することができます。
サッシの場合、強化ガラスを除き、割れたガラスは非常に危険であり、水害に対する防災の視点からも合わせガラスやフィルムを張ったガラスとすることが好ましいものと思われますが、これらは破壊されにくいため、在来工法であれば、浸水時に水流による荷重を受け続ける可能性があります。
このため、合わせガラスやフィルムを張ったガラスを、サッシやサッシ枠ごと開放可能な支持構造とすることで、津波等水害時の構造物の倒壊の可能性を低減させることができるものと考えます。
図の例では、方立に設けたガイドにより、サッシ側のピンを受け、浸水時には壁体としてのサッシを流出させず回転させて水流を受け流す構造としています。下部のロックユニットボックスは、壁面に食い込んだ外部空間として、壁体流出型で示したフロートフィンロックの機構を納めることができます。
尚、通常時、サッシ等の壁体と、当該壁体が接する方立や床、天井面等とは、パッキンを介して気密性を確保し、隙間はグラスウールや、必要によりロックウールを充填します。また、支持対象の壁体がサッシである場合、裏込のモルタル等が無い為、通常のサッシと比較し、サッシ自体に一定の強度を持たせる必要があります。
ソレノイドロック機構
上記壁体流出型の構造例で示した、水流の動圧や浮力を利用し受動的に解除できる上述のフロートフィンロック機構に対し、蓄電池の設置等により必要な動力が確保でき、津波や洪水の襲来時においても確実に動作させることが見込める場合、具備させるロック機構は、ソレノイドやモーター等を用い、電気的に制御可能なものとすることもできます。
ここでは、縦軸回転式引波対応型壁体支持機構の例で示したM字型の形状の下部ガイドに設置されたソレノイドロックの例を示しています。
通常時は当該下部ガイドに設けられた開口部を貫通して突出した状態で静止している二本のデッドボルトが、ファスナーボルトの移動を拘束し、支持対象の壁体をロックしています。
デッドボルトは、通常時、谷部に位置するファスナーボルトの水平方向への移動を拘束していますが、下部ガイドの上部には、ファスナーボルトの上方への移動を拘束する押さえガイドが取り付けられているため、通常時、当該ファスナーボルトは、どの方向への移動も拘束され、壁体は安全に保持されます。 津波や洪水の襲来時、デッドボルトは信号を受けたソレノイドにより下部ガイドの面内に引き込み格納され、浸水すると、水流の動圧による荷重を受けて当該壁状体は開放されます。
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