構造のタイプ
津波救助装置は、設置場所や適用する施設等の条件に合わせ、最適な構造方法を検討し、採用します。主な検討ポイントとして、階段状とするか梯子状とするかといった大まかな構造タイプ、可動の機構を含めた詳細構造方法、転落防止装置の構造、支持架構などがあります。
構造の例
種類 | 構造例 | |
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階段状 | 固定式 | 基本となる固定式の階段状の津波救助装置の例です。 前面の傾斜面に沿って漂着した遭難者を水面に上昇させます。 |
変形機構 | 通常時は階段としての形状を維持し、浸水時は水流や浮力を利用してロックを解除し変形し、遭難者を上昇させる形態となります。 変形機構やロック機構には数多くのバリエーションがあります。 |
段鼻押上機構 | 漂着した遭難者により押し込まれた段鼻が遭難者を上方に持ち上げます。 可動部を減らしたシンプルな構造とでき、歩きやすく通常時の階段としても最適です。 |
透かし階段後付けユニット |
透かし階段に後から設置できるユニットです。 漂着した遭難者によりユニット先端段鼻部が押し込まれると、蹴込部分に遭難者を上昇させる傾斜面が形成されます。 蹴込の構造により、ローラータイプ、ケーブルタイプ、櫛歯タイプなどがあります。 |
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梯子状 | 固定式 | 傾斜した状態で固定されたタイプの例です。 浸水時の動作の信頼性が高く、緩衝効果を持たせた転落防止装置を備えています。 |
手摺タイプ | バルコニーや廊下などの手摺でありながら、浸水時は水流や浮力により回転して遭難者を上昇させる傾斜面を形成します。 防災技術ラボの「受け流し構造」の技術を応用しています。 |
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フェンスタイプ | フェンスでありながら、浸水時は水流や浮力により回転して遭難者を上昇させる傾斜面を形成します。 引波対応型とすることもできます。 防災技術ラボの「受け流し構造」の技術を応用しています。 |
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ネット状 | 巻き取った状態で格納しておき、浸水時に引き出して津波救助装置として機能させることができるネット状(網状)タイプの例です。 | |
スロープ状 | スロープ状の津波救助装置の例です。 | |
雛壇状 | 雛壇状の構造例です。 津波救助装置は、階段等昇降の為の部分を別の位置に集約し、大部分をセーフティネット専用部分として構成することができます。 |
階段型
階段型の代表的な構造例を示します。
階段型の津波救助装置は、傾斜した格子状の蹴込(前面)を持つものと、漂着した遭難者の衝突や接触を受けて回転するなどして当該遭難者を上方に押し上げる機構を持つものとがあります。
前者については、階段部分(蹴込・踏面共)を固定式とした場合と、浸水時に浮力や水流の抵抗(動圧による荷重)、漂着した遭難者の衝突を受けて変形し、傾斜した前面を形成するものとがあります。階段部分を固定式とした場合、維持管理が簡単で、装置の信頼性が高いものとなりますが、蹴込が通常の階段と逆方向に傾斜しているため、蹴込が段鼻(段の先端)より手前側に出てくるため、階段の昇降がしづらく、特に下降時にはかかとをとられて転倒しやすくなることが考えられます。可動式とした場合は、通常時には、一般的な階段の形状を成しており、安全に昇降できますが、維持管理状態によっては、津波等の襲来時に確実に変形できない可能性があります。このため、可動式とする場合は、極力可動部を少なくしたり、動作の信頼性を高めるため、並列的・直列的な関係を問わず、連動する機構の一部に動作の不具合があっても、その他の部分には影響ない冗長な構成とするなどの配慮が必要となります。
後者については、漂着した遭難者の、水平方向の、体重による慣性力や、身体にかかる水流から受ける荷重(動圧)を、接触面が上方に跳ね上がる構造とした回転体やガイド等で支持された可動部で受け、遭難者の運動方向を、水平方向(水流の方向)から、上段に向かう方向に変換するものです。上方に前者の傾斜した格子状の蹴込を併用する、または形成するものとすると、より確実に漂着した遭難者を上方に誘導することができるものとなります。
■固定式
蹴込面(階段前面)が、漂着した遭難者を上昇させる傾斜面を、予め形成しているタイプです。
後述する階段状の津波救助装置の構造例が、浸水時や遭難者の漂着時に変形して遭難者を上昇させる構造としているのに対し、この構造例は、転落防止装置以外の部分が固定式であるため、メンテナンスが簡単で可動部の動作不良による問題の恐れがなく、信頼性が高いものとなります。
但し、上述のように、下降時に蹴込部分にかかとをとられて転倒・転落しやすくなるなど、歩行時の危険性が高くなるため、日常の用途との兼用は不向きとなります。
■変形機構
浸水時にロックが解除され、水流による荷重を受けて変形することができる階段型の例です。
蹴込、踏面共回転軸により支持されており、通常時は蹴込の延長部分が段の下側にてロックユニットに移動を拘束されているため、蹴込は回転や移動をすることができません。蹴込と段鼻部分で回転軸により接続された踏面も、段の先端側(段鼻部分)、奥側双方回転軸で拘束されているため、回転や移動をすることができず、安定して歩行時の荷重を支えることができます。ロックユニットは、ウェイト、フロート、水流受を兼ねたもので、やはり回転軸に支持されています。通常時、ロックユニットは、ウェイトの荷重により、ウェイトの反対側のフック部分が持ち上げられ、蹴込の下部の延長部分を拘束し、階段が変形しないようロックしています。
浸水すると、ロックユニットが浮力や水流による荷重を受け、反対方向に回転しますので、フック部分が下がり蹴込延長部分の拘束を解き、階段は水流の荷重や遭難者の接触による荷重を受け、変形できるようになります。踏面の奥側はスライダーを介して回転軸に支持されていますので、踏面は当該スライダーの範囲で奥側に移動し、蹴込は傾斜する前面を形成し、漂着した遭難者を上方に誘導できるようになります。
■段鼻押上機構-1
ガイド機構により挙動を制御されたフラップ型の段鼻ユニットが、漂着した遭難者の身体に押し込まれて跳ね上がり、当該遭難者を上方に押し上げ誘導することができる階段型の例です。
段鼻ユニットは、ガイド機構により、通常時には上面の歩行による荷重を受け止め、遭難者の漂着時には押し込まれながら先端部を跳ね上げ遭難者を上方に押し上げます。
■段鼻押上機構-2
漂着した遭難者の接触による荷重を受けて段鼻ユニットが回転することにより、当該遭難者を上方に誘導することができる階段型の例です。
段鼻ユニットの前面の凹凸が、遭難者の身体との接触部分に傷つけない程度に食い込むことにより、当該ユニットは空転せずに当該遭難者に上向きとなる反力を伝達し、遭難者の移動方向を、水平方向から、上段方向へ切り替えることができます。凹凸部分は、滑りにくく荷重を伝達でき、かつ、遭難者の身体を傷つけないような、形状や材質とします。
また、段鼻ユニットは回転すると、格子状の踏面の下に隠れていた部分が持ち上がって現れ、遭難者の身体の、下段側に残っていた部分を跳ね上げ、また、遭難者の身体が凹凸部分に接触している間は傾斜する前面を形成し続けるため、遭難者は、より確実に上段に誘導されることになります。
段鼻ユニットは、回転すると踏面となる部材を落下させる構造としているため、一定量下方に下がった踏面と段鼻ユニットとの段差を生じさせ、転落防止装置として機能することができます。
■透かし階段後付けユニット
後付可能なアタッチメントを通常の透かし階段に取り付けることで、津波救助装置を構成できる例を示します。
段鼻ユニットと、踏面上面を揃えるためのフカしユニットを基本アタッチメントとし、条件に合った最適な蹴込ユニットを組み合わせて設置します。段鼻ユニットは、踏板上面にスライダーを介してアンカーボルトで取り付け、片持構造で持ち出した構造となります。浸水時、遭難者が漂着すると、当該遭難者の接触を受けて水平方向に押し込むことができますが、通常の歩行時や避難時には、上部からの歩行者の荷重を受けて、スライドし合う部分の突起部が干渉し合うため押し込むことができず、安全に歩行することができます。
段鼻ユニットには転落防止装置が具備されており、通常時は倒伏した状態で踏面の一部となり、浸水時は浮力を受け起立することで転落防止装置として機能します。踏面は、倒伏した転落防止装置に上面を揃えるため、フカしユニットを設置し、歩行しやすいものとします。
また、浸水時、段鼻ユニットが押し込まれると、組み合わせて設置された蹴込ユニットが、傾斜した格子状などの面を形成し、遭難者を上方に誘導できる状態になります。
上図は、上の段から順に、通常時の状態、浸水して遭難者が漂着し段鼻が押し込まれた状態、転落防止装置が遭難者を保護している時の状態を示しています。段同士を結ぶ点線は、蹴込ユニットによる蹴込面を示します。
上図は、蹴込ユニットを、横桟型、ケーブル型、櫛歯型とした例を示しています。
蹴上(階段の段差)が小さい場合などは、図のように、簡単な構造の横桟型とすることができます。
この場合、横桟表面に沿って遭難者を滑らかに上方に誘導する為には、当該横桟を一定の太さの鋼管等としたり、自由に回転するローラーなどとすることが必要となります。また、漂着した遭難者の手などが入り込み上昇を妨げられ、危険となる可能性がありますので、横桟を設置する踏面は横桟より多少奥まで延長したり、また、間隙の高さを小さく抑えるなどの工夫をすることが望まれます。
これらにより、横桟型とした場合は、水流の透過性が不利なものとなります。
蹴込は、樹脂コーティングしたケーブルによる格子とすることもできます。
一定のあそびを持たせて格子状に配置したケーブルを樹脂でコーティングし、段鼻が押し込まれることであそびを使い切って伸びきらせ、漂着した遭難者を上段側に誘導できる傾斜した前面を形成させるものです。ケーブルによる蹴込は通常時、あそびの長さを利用して、段鼻の先端(図の例ではクッション材ごと)を巻き込み、下端も折り返すことで、段の先端より奥側に位置させ、歩行時の邪魔にならないようにすることができます。ケーブルの樹脂コーティングは、巻き込み部分や折り返し部分をシート状に成型し、巻き込みまたは折り返しにより接触する面に弱く接着しておいたり、形状の癖を付けて成型しておくことで、通常時の状態で飛び出しにくいものとできます。
尚、ケーブルの樹脂コーティングは、ケーブルに癖を付けるのみならず、遭難者の身体にケーブルを食い込ませず、滑らかに上方に誘導する役割を担います。
蹴込は、踏面奥上面や段鼻下面に設置する櫛歯状のユニットとすることもできます。
踏面奥上面に、前面が傾斜した櫛歯状の蹴込を設置すると、上段側の段鼻ユニットが押し込まれた際、当該蹴込が最前面に現れ、漂着した遭難者を上方に誘導できるものとなります。
櫛歯状の蹴込は、踏面奥の上面のみの設置とした場合、上段の段鼻下部に遭難者の身体が引掛りやすくなりますが、上段の段鼻下部にも櫛歯状の蹴込を、上下逆向きに、下段の蹴込と互い違いとなるように配置すると、遭難者の身体が当該段鼻下部に入り込みにくく、安全に上昇させられる構成となります。尚、段鼻下部の蹴込の前面は、およそ垂直面とすることで、遭難者の身体が引掛りにくく、通常の使用時も歩行がしやすくなります。
梯子型
津波救助装置は、梯子型とすることで、省スペース化でき、構造もシンプルなものとできます。
梯子型とする場合、基本的に、縦桟や転落防止装置の前面の傾斜面を利用して漂着した遭難者を上方に誘導します。このため、横桟は、縦桟の間隔にもよりますが、縦桟前面より、一定量奥側に位置させた構造とします。また、基本的に、横桟を転落防止装置の支持回転軸とします。
梯子型の津波救助装置は、通常時、平伏した状態で地面内に格納したり、鉛直に支持してフェンスや手摺等として利用し、水害時には動力や水流の荷重や浮力を利用して変形させ、津波救助装置として機能させる構造などとすることができます(別途記載)。
このように、梯子型の津波救助装置には、様々な長所がありますが、以下のような短所もありますので、適切な対策が必要となります。
● 遭難者を上昇させる能力
勾配が大きい為、乱流により局所的に大きな渦が発生する箇所などでは、水中の遭難者を上昇させる能力が不十分となる可能性があります。
● 遭難者の漂着時の衝撃
勾配が大きい為、他の方式と比較し、遭難者が漂着した際の衝撃が大きなものとなり、当該遭難者の身体にダメージを与えやすくなります。このため、遭難者が接触する縦桟表面に緩衝材を取り付ける、横桟や転落防止装置および支持架構に緩衝機構を設ける、といった対策が望まれます。
● 転落防止装置の構造
転落防止装置は、浮力を利用することにより、水流から受ける荷重と釣り合う角度まで起立させることができますが、梯子状の場合、梯子自体の勾配の方が大きくなりやすく、転落防止装置は水面に到達した遭難者の身体を補足しにくいものとなります。対策として、上の右側の図のように、転落防止装置を支持する回転軸の反対側に、転落防止装置の起立を補助するためのフロートやフィンとなる部分を持たせることで、浸水時に、確実に転落防止装置を起立させることができるようになります。
尚、この部分にウェイトを持たせると、通常時に風圧などで転落防止装置が起立せず、騒音の発生などを防止できます。
● 手足の引掛り防止
梯子型とすると、横桟を手がかりや足がかりとして避難することになりますが、靴を履いた状態で足がかりとするには、縦桟の内法幅が120mm程度は必要となります。これにより、水中にて遭難者が漂着した際、縦桟の間に手足が入り込み引掛り、上昇を妨げられる恐れがあります。
このため、足がかりとなる横桟の後方に、中桟として、細い縦桟を小さな間隔で入れることで 、手足の入り込みを防止できます。
また、横桟を、鉛直方向や縦桟の軸方向に延びた一定の長さのスライダーにより支持し、一定量上方に移動できるものとすることにより、避難時の使用には支障をきたさず、浸水時には遭難者の手足が入り込んでも、身体が上方に移動しようとする際に引き抜けやすいものとすることができます。
● 上部への アクセス
高齢者等にとっては梯子状の津波救助装置は上りづらく、また、固定構造物とする場合、通常時の昇降には利用しづらいため、所々に上部避難路へのアクセス階段やスロープを設けることが望まれます。
避難時の対策としては、別途解説する引き上げ方法を備えると良いでしょう。(防災技術ラボ/引き上げ装置を参照下さい)
■固定式
固定式(転落防止装置を除く)の梯子型の津波救助装置の例を示します。
上述の問題点に配慮した転落防止装置を設置した例です。転落防止装置は千鳥配置としています。
回転軸となる横桟に、アーム型の転落防止装置が定間隔で設置されています。転落防止装置は、回転軸の反対側にウェイト部分を有し、これにより通常時は梯子面から突出しない角度を維持し、装置全体は梯子として昇降可能な形状を維持しています。
転落防止装置は、フロート・フィンユニットに接続されており、浸水時には水流と浮力を受け、フロート・フィンユニットが回転し、これにより転落防止装置が起立します。
遭難者が漂着すると、起立した転落防止装置に衝突しますが、転落防止装置はフロート・フィンユニットに接続されているため、水中でのフロート・フィンユニットの回転抵抗が転落防止装置に伝達され、衝突に対する緩衝効果が得られます。
漂着後、遭難者は透過する水流に押され、転落防止装置を押し込みながら、押し込まれた転落防止装置前面に沿って上昇します。
通過後の転落防止装置はフロート・フィンユニットにより再び起立されるため、水面に到達した遭難者は、直下の起立した転落防止装置に保護されます。
■手摺タイプ
バルコニー等に設置可能な手摺でありながら、浸水時は水流や浮力により回転して遭難者を上昇させる傾斜面を形成する、手摺タイプの構造例を示します。
防災技術ラボ「受け流し構造」にて解説する支持構造により、通常時は安定して支持され、浸水時には水流や浮力により回転させることができます。
この例では、集合住宅のバルコニーの手摺を津波救助装置としていますが、下端を延長し、下階の日照コントロール用のルーバーを兼用しています。
浸水時、手摺(とルーバー)は水流と浮力を受けて回転し、ラッチによりロックされ、津波救助装置として機能できるようになります。
この津波救助装置に漂着した遭難者は、縦桟前面に沿って上昇し、水面に到達すると、水平ルーバーの回転軸や手摺の横桟を手掛かりや足がかりとして上がり、さらに、上階への避難梯子を下ろし、これを上って上階に避難します。※避難梯子は下階から操作可能な津波対応タイプとします。
■フェンスタイプ
フェンスでありながら、浸水時は水流や浮力により回転して遭難者を上昇させる傾斜面を形成する津波救助装置の構造例です。
手摺タイプ同様、防災技術ラボ「受け流し構造」の支持構造により、通常時は安定して支持されたフェンスでありながら、浸水時は回転し、津波救助装置として機能できるようになります。
この例では、開き止めのケーブルで展開量を制限された控え(つっかえ)を展開させ、より大きな漂着時の荷重に対応できるものとしています。
転落防止装置は、簡易な棒状のものとすることにより、コストを抑え、かつ、通常時のフェンスとしての機能を阻害しないようにすることができます。
転落防止装置は、小さな縦方向のスライダーを介して回転軸となる横桟に取り付けられていますが、通常時は回転しないよう、下段の横桟やダボに下端を挟まれ拘束されています。
浸水し、フェンス状の津波救助装置全体が回転すると、転落防止装置は水流を受けて下端が拘束を外れますが、棒状である転落防止装置は、中心より上部寄りの部分を回転軸に取り付けられているため、その下部がより大きな荷重を受け、装置内部側に押し込められ、上部側が装置前面から突出するように回転し、開き止めにより一定の角度を維持します。突出した転落防止装置上部は、漂着した遭難者の接触により押し込められますが、通過した部分の転落防止装置は再び起立するため、水面に到達した遭難者の直下の転落防止装置が遭難者を保護することができます。
この構造例は立ち入り防止などのフェンスを兼用できるため、海岸(後述する引波対応型とすると引波時に遭難者が海に押し流されるのを防止できます)や河川、道路や鉄道などに沿って設置すると、都市に長大なセーフティネットを形成することができます。
さらに、地面や支柱部分にスリットを設けてケーブルを格納しておき、支柱部分をガイマストとして利用することにより、より大きな施設を構成することができ、大きな浸水深に対応できる施設を構成できます。
通常時、ケーブルは格納されているため、邪魔にならず、単なるフェンスとして機能します。この時、普通のフェンス同様、ベースプレートが支えています。
浸水時、フロートフィンユニット(防災技術ラボ「受け流し構造」にて解説)によるロックが解除され、水流を受けた津波救助装置がガイドに沿って上昇し、ケーブルを引き出しながら回転します。
格納されていたケーブルの長さいっぱいに展開すると、津波救助装置は回転を止め、津波救助施設として機能できるようになります。
このとき、装置全体がトラスを形成し、水流や漂着物による大きな荷重に耐えられる形態となります。支柱や津波救助装置は、主に、圧縮力となる軸力を受け、ケーブルは引張力を受けます。
また、支柱とケーブルの配置間隔を小さくすることで、これらの支柱とケーブルにより、車両等の漂流物に対応できる漂流物ガードを兼用することができます。これにより、車両等の漂流物は漂流物ガード部分にてフィルタリングされ、遭難者は安全に津波救助装置に漂着し、避難または待機することができます。
※実際に車両が漂着した際は、大きくケーブルが押し込まれ、場合によっては支柱に到達し、支柱が押し曲げられることも考えられますが、上述のように、津波救助装置全体がトラスを形成しているため、支柱が曲げられてもほとんど強度を低下させずに機能を維持することができます。このため、支柱は、極力基部付近に(塑性)ヒンジが形成される設計とします。
津波救助装置全体を双方向に回転可能な構造とすることにより、引波対応型とすることができます。
(浸水時に回転させる支持構造の詳細は、防災技術ラボ「受け流し構造」を参照下さい。)
設置が容易なフェンス状の津波救助装置ですが、敷地の都合等により、断続的・断片的な配置としても、有効にセーフティネットを形成することができます。
詳しくは、引波対応・漂流物ガード兼用のフェンスタイプの津波救助装置の断続配置例も参照下さい。
■網状(ネット状)の構造
津波救助装置は網状の構造とすることもできます。
網状の津波救助装置は、転落防止装置の設置が難しく、避難のしやすさや遭難者を上昇させる能力も他の形式より劣りますが、通常時は巻いた状態で格納し、水害時にはウィンチで引き出すことができ、非常に経済的で設置しやすいという利点があります。
但し、網状の津波救助装置は、水流や遭難者の接触を受け、たわんで部分的に勾配が大きくなり過ぎて水中の遭難者を上昇させることができなくなることが予想されます。 このため、極力緩い勾配の計画とする、網全体に大きな張力を加える、両側端を線状のレール等により支持する、中間部に構造ケーブルを設置する、といった対策を施し、大きくたわませずに一定の傾斜を確保できる構造とします。
上の左側の図は、上部のメインケーブルと下部アンカーのみにより支持した場合で、局所的に勾配が過大となり遭難者を上昇させられなくなった状態を示しています。その右側の図は、両側端をガイドレールで支持することにより対策した例です。
また、網状の津波救助装置は、漂着した遭難者の手足が入り込み引掛ると、上昇できなくなるため危険です。このため、手足が入り込まない大きさの網目とし、一定のパターンにより、足がかりとなる部分のみ足が入る最小限の大きさの網目するなどの対策をします。さらに、図の例のように、足がかりとなる網目の下部に、大気中では自重により垂れ下がり、足がかりの利用を妨げず、浸水時はめくれあがって当該網目をふさいで手足が入り込むのを防止するカバーを付けると、より安全なものとできます。
尚、網目が大きすぎる場合、手足が入り込んでも、身体が上昇しようとすることで、そのまま抜けることができますが、頭部が入り込んだ場合は抜けづらく、また、それ以上の大きさの網目では、体ごと入り込んだり、貫通してしまう恐れがありますので、網目は水流の透過性に支障がない範囲で小さなものとすることが安全であると思われます。
編み方については、上図の例では、足がかりの網目の周囲の辺を通る部材を力骨のように主要な構造部材とし、網全体の応力を負担させています。
上図右側の図のように、網目が三角形を成すように編むと、網の面内のせん断変形に対する剛性が高くなり、避難時に変形しづらく安定性が増し、より安全に避難できるようになります。また、下端と側端の辺を固定して支持した場合など、この編み方と組み合わせることにより、全体的なたわみに対する抵抗を大きくすることができます。
スロープ型
スロープ型の代表的な構造例を示します。
すのこ状のスロープの上面に浮力で起立する転落防止装置を備えることで、簡単な津波救助装置が構成できます。この場合、転落防止装置は、発砲ウレタンを曲げ鋼板で包んだ棒状のものとするだけでも簡単に機能を発揮できると思われます。
尚、他の構造とした場合も同様ですが、転落防止装置は、千鳥配置や、雁行配置とすることで、細かい間隔で設置することができ、水位の変動が小さい場合でも、漂着した遭難者を極力大気中にて待避させておくことができます。
※上図は避難者の足と転落防止装置の位置関係が少しおかしいですがご容赦ください
ひな壇型
ひな壇型の代表的な構造例を示します。
細長いテラスをひな壇状に連続配置し、テラスの前面となる部分に傾斜した格子状部分を設置し、テラス同士を階段等で接続して上部に上って避難できるようにすることで、津波救助装置が構成できます。
■構造例1
格子状部分は、漂着した遭難者を上方に誘導するだけではなく、水面に到達した遭難者の転落防止装置として、また、水面付近で待避している遭難者を漂流物から保護することができます。
格子状部分を上段のテラスより上部まで立ち上げ、階段を千鳥状に配置することで、当該装置に漂着した遭難者を確実に格子状部分に漂着させ、施設上部に押し上げることができます。
■構造例2
スムーズな避難のため、階段部分は直線状の配置とすることもできますが、この場合、階段部分は後述する階段状の避難装置とします。
■構造例その他
順次記載を追加していく予定です。
共通事項
津波救助装置には、ひな壇状、スロープ状、階段状、梯子状、網状などの構造のタイプがあります。それぞれに長所・短所がありますので、構成したり適用させる施設に合わせ、最適の構造を採用します。
■勾配を小さくすると
基本的に、津波救助装置の勾配が小さいほど、水流に呑まれた遭難者を上方に押し上げる効果が大きくなりますが、一定の高さを押し上げるのに必要な水平方向の距離が大きくなり、施設も大きく、広大な敷地が必要になります。
■勾配を大きくすると
津波救助装置の勾配を大きくすると、施設はコンパクトになり、小さな敷地に対応できるようになりますが、水流の速度および地形や地表の工作物等の条件により大きな渦が発生するなど、局所的に水流の鉛直方向成分が大きくなる可能性が予想される箇所では、急勾配の津波救助装置では水中の遭難者を押し上げる効果が十分生み出せない場合があります。
■通常用途との兼用
スロープ状や階段状は、日常の通行等に利用できるため、別用途と兼用した津波救助施設が構成しやすくなります。
また、梯子状の津波救助装置は、通常時は直立させ、手すりやフェンス等として使用し、浸水時に回転させて梯子状の津波救助装置を形成させたり、通常時は地面に倒伏した状態で格納させておき、上部を道路や広場などに利用し、津波等の襲来時には起立させて津波救助施設を形成させることができます。
転落防止装置について
※記事作成中、順次追加予定です。お待ちください。
緩衝機構について
※記事作成中、順次追加予定です。お待ちください。
漂流物ガードについて
※記事作成中、順次追加予定です。お待ちください。
支持架構
登り梁やササラ桁のように傾斜した構造部材に対し、母屋状の水平方向の二次部材を設置し、津波救助装置の下地とすると、簡単に支持架構が構成できますが、下部空間の利用や津波救助装置の構造、水流の透過抵抗などの条件により、適切な架構の構成方法や支持スパンなどを検討します。
施設全体を変化の多い形状とする場合は、鋼管等により立体的なトラスを形成し、これに津波救助装置の下地となる二次部材を掛け渡す構成とすることもできます。
支持架構に使用する構造部材は、円形断面の鋼管やCFTなど、水流の抵抗を抑えつつも、粘り強さを確保できる部材を使用することが望ましいです。
動力について
津波救助装置は、基本的に、動力を必要とせず、津波や洪水の水流や浮力を受動的に利用して機能させるものです。
※地面内の格納式の装置は、浸水前に動力により起立させておくことで、初期避難先として活用できるようになります。
また、ロック機構は、動力により、または、停電とその他の条件を組み合わせた複合的な条件により解除可能な構成とすることもできます。
ロック機構について
※記事作成中、順次追加予定です。お待ちください。